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「最初の人間」(Le Premier Homme、2011年、仏・伊・アルジェリア映画) [映画]

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年末年始の休み、2本の映画を観た。イタリア人監督ジャンニ・アメリオによる「最初の人間」と、イギリス人監督トム・フーパーによる「レ・ミゼラブル」だ。「レ・ミゼラブル」は、子供のころ読んだ縮約版「ああ無情」に始まり、大人になってからは全訳版の「レ・ミゼラブル」を読み、映画版も既に2種類は観ているので、正直言ってあまり新しい感動はなかった。一方、「最初の人間」の方は、小説より先に映画を観たわけだが、何かしらモヤモヤした感覚が残った。

 

この映画の主題は何だろうか。カミュ(映画の中では「ジャック・コルムリ」)という作家を形作った少年時代の境遇だろうか、カミュの生後まもなく第1次大戦で戦死した父親探しの精神遍歴だろうか、フランスのアルジェリアに対する植民地支配だろうか、たぶんそれら全てを含んでいると思うが、いずれも簡単に要約できるようなテーマではないし、相互のつながりも判然としない。貧困や植民地主義を一方的に断罪するといった感じではないし、そもそも貧困にあえぐコルムリ一家は支配階級とは言い難い。

 

映画の中でいくつか印象的なシーンを挙げよう。

1957年、アルジェ。成功した作家である主人公のジャック・コルムリが、母親に会いにアルジェに帰郷する。空港には大学生が迎えに来ており、ジャックはそのまま大学に直行して講演する。「私は固く信じます。アラブ人とフランス人が共存できる可能性を。自由と平等な人々による共存こそが現在での唯一の解決策です。」この言葉はヤジでかき消される。

 

1924年、アルジェ。祖母と一緒に昼寝をしていた少年のジャックはベッドから抜け出し、フランス人の遊び仲間たちと合流する。彼らの標的はアラブ人の犬の捕獲人だ。その目を盗んで、檻を開けて犬を放すというイタズラをするが、ジャックは捕まり、犬の代わりに檻に閉じ込められてしまう。捕獲人の息子に自分のサンダルをあげて、ようやく解放される。

 

1924年、アルジェ。祖母のお使いで肉を買いに行ったジャックは、少ない分量を注文して、浮いたお金を自分のものにする。そして祖母に対しては、肉屋が分量を偽ったのだと言ったため、祖母は肉屋に出かけて抗議する。肉屋は不満ながらも肉を追加して渡す。店を後にしたジャックは、実はトイレにお金を落として、お金が足りなかったのだと祖母に告白する。(実はこれもウソだったのだが)祖母はジャックに追加分の肉を肉屋に返してくるよう指示し、自分はトイレの中に手を突っ込んでお金を徹底的に探す。

 

1924年、アルジェ。小学校のベルナール先生がジャックの家を訪れる。学校を卒業したらジャックをすぐに働かせたい祖母と母親に対し、奨学金をもらって進学させるよう説得するためだ。この説得は成功した。

 

1957年、アルジェ。アルジェに帰郷したジャックは、ベルナール先生と再会する。「先生は私の第二の父です。」ベルナール先生はジャックに対して、アルジェリア問題について小説を書くよう薦める。

ジャック: 「難しいです。」

ベルナール先生: 「君でも?

ジャック: 「私だからです。」

 

1924年、アルジェ。教室で、アラブ人のクラスメート、ハムッドがジャックに対して「おべっか使い」、「オトコオンナ」と言って喧嘩をしかける。先生はハムッドに、校庭で両手を頭にのせて立たされるというペナルティを与える。

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1957年、アルジェのアラブ人居住区。ジャックは、かつてのクラスメート、ハムッドを訪ね再会する。彼は病気にかかり、しかも一人息子がテロリストの容疑で捕まっている。ハムッドはジャックに対し「我々に友情はなかった」とはっきり言うが、一方で息子の件でジャックの力を借りようとする。その結果、ハムッドは留置場にいる息子との面会を許されるが、息子は「ボクは無実じゃない」と言って処刑されることを望む。

 

映画の最後の方で、ハムッドの息子の処刑後、ジャックはラジオ番組で話をする。「・・・私は正義を信じる。アラブ人に告ぐ。私は君たちを守ろう。母を敵としない限りは・・・母は君たちと同様不正と苦難に耐えてきたからだ。もし母を傷つけたら、私は君たちの敵だ。」

 

ジャックのこうしたセリフはなかなか格好いい。こうしたセリフが出てくる背景を知りたい。元の小説を読んだら何かわかるだろうか。そう思って、映画を観た翌日から、私は『最初の人間』(日本語訳は新潮文庫版、フランス語版はGallimard社のfolio版)を読み始めた。


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