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「あなたへ」(2012年、日本映画) [映画]

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9月の上旬、映画「あなたへ」を観た。テレビで高倉健の舞台挨拶のシーンなどを見たとき、正直言って「随分歳をとったなぁ」と思った。ちょうど、フランス映画「アーティスト」を観て間もないころだったので、名優が歳をとるとはどういうことか、という関心がなかったと言えば嘘になる。しかし、映画の中の健さんはシャキッとしていたし、やはりカッコ良かった。

 

私にとって、高倉健の映画で最も思い出深いのは「駅 STATION」(1981年)だ。ちょうどこの年、私は札幌に勤務しており、この映画も封切られたとき札幌の映画館で観た。高倉健は警察官でオリンピックの射撃選手、上司は「あなたへ」にも登場する大滝秀治だ。映画の中で、大滝秀治が高倉健に現役を引退し、コーチに転身するよう伝えるシーンがある。これに対し、高倉健は低い声で「自分は一介の警察官です。上司の命令には従うのみであります」と答える。このセリフはその後、サラリーマン時代に何度か使った。上司が無茶な仕事を指示したときなど、残業しながら同僚同士で「自分は一介のサラリーマンです。上司の命令には従うのみであります」と自嘲気味に言い合ったものだ(笑)。

 

それはさておき、「あなたへ」は淡々とした中にも滋味のある映画だ。高倉健は富山刑務所で受刑者に木材工芸の指導をする技官。結構歳をとってから、刑務所に歌手としてよく慰問に訪れていた田中裕子と結婚する。(それぞれ、映画の中ではちゃんとした名前があるのだが、なじみのある役者名をそのまま使うことにする。以下同様。)しかし、田中裕子は謎めいた遺書を残して病死する。自分の遺骨を郷里である平戸の海に散骨してほしいというのだ。そして、もう一通の遺書が平戸の郵便局に局留めで送ってあるという。

 

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高倉健はキャンピングカーに改造したバンで平戸に向かう。道中、中学の国語教師だったビートたけし、イカ飯の実演販売をする草彅剛、年長でありながらその部下である佐藤浩市らと出会う。ビートたけしは、後に車上荒らしの常習犯であることが判明するのだが、嘘っぽい感じがよく出ていた。高倉健に「旅と放浪の違い、わかりますか?」と問う。高倉健が「わかりません」と言うと、「目的があるかないかの違いです」という。さらに、「あっ、それからもう一つ。帰るところがあるかないかの違いです」と付け加える。結局、帰るところをなくすのは、高倉健の方だ。

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草彅君も心の闇を抱えていた。全国を出張して回るのが仕事なだけに、留守中の妻に男がいると荒れるのだ。その部下である佐藤浩市は、どうやら平戸に土地勘があるようなのだが、寡黙で影のある男という感じだ。彼は高倉健に、平戸に行って散骨する際、船を出してくれる漁師の当てはあるのかと尋ね、高倉健が「ありません」と言うと、ある漁師の名前を書いたメモを渡す。

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高倉健が平戸に着いたとき、ちょうど台風が襲う。このため余貴美子が経営する飲食店で一泊することになる。余貴美子の旦那はかつて、やはり台風の日に漁に出て遭難し、死体が見つからないまま失踪宣告されたのだという。一方、佐藤浩市がくれたメモの漁師、大滝秀治に散骨を頼みに行くが、「そんなやつは知らん」と断られる。また、郵便局で受けとった田中裕子の「遺書」は、自筆の灯台と海を描いた絵はがきに「さようなら」の一言が書かれていただけだった。

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ここから先を書くのは、野暮というものだろう。余貴美子が夜中、飲みながら高倉健に語る「夫婦って言ったって、お互いそんなにわかってるわけじゃないから」というのが、おそらくこの映画のモチーフの一つだ。夫婦にしてそうであるなら、いわんや他人同士においてをや、ということになるだろう。

 

最後に、この映画にはいくつか映像的に非常に美しいシーンがある。平戸の海の散骨シーンでは、小さく砕かれた白い骨が青い海の中に落ちていく様子が夜空に輝く星のように見えた。また、生前の田中裕子を回想するシーンで登場した兵庫県竹田城址のシーンは、日本でこんな光景が見られるのかと驚いた(http://www.tomorrowearth.com/2008/08/takeda-castle.html)。

 

*上の本文で引用したセリフは私の記憶によるもので、大意は損ねていないと思いますが、必ずしも正確でない可能性があることをお断りしておきます。

 


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