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キティちゃんが教えること [経済]

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200810年のヨーロッパ滞在中、最もよく目にした日本のブランドはサンリオのキティちゃん(Hello Kitty)だ。たいていの街にキティちゃん製品を扱っている店があり、小さな女の子の半数近くはキティちゃんTシャツを着ていたり、グッズを持っていたりするとの印象を持った。それくらい目立った。

 

ヨーロッパでは、アメリカと違って日本車はそんなに目立たない。フランスやイタリアなどでは、それぞれの国産車が多いし、スイスのように国産車がない国ではドイツ車が優勢だ。電気製品はというと、周知のように最近は韓国勢が優勢だ。そんな中で、キティちゃんは頑張っている。たかが白猫のデザインと言ってしまえばそれまでだが、日本経済の地盤沈下が続くなか、希望の光と見えなくもない。

 

そんなわけで、このブログでもいつかキティちゃんのことを取り上げようと思っていた。その矢先、先週の土曜日の夜、NHKでキティちゃんの番組をやっていた(512日午後9時~1013分、NHKスペシャル「追跡!世界キティ旋風のナゾ」。再放送は、519日午前130分~243分)。私は、外で飲んでいて帰宅が遅かったため、最後の二、三〇分しか見られなかったが、面白そうだったので、後日、オンデマンドで最初から通して見た。

 

番組の冒頭では、日本のコンテンツ産業の現状が紹介される。売上高は15兆円に上るが、海外比率は5%7,000億円)にとどまる。それは相手国のニーズに合わせる努力がたりないからだという。ところが、サンリオは2011年の営業利益149億円のうち、国内は14億円の赤字であり、利益の100%以上を海外で稼いでいる。その秘密に迫ろうというわけだ。

 

冒頭でも述べたようにキティちゃんグッズはあちこちに溢れている。サンリオは、そうした製造・販売業者から、キティちゃんのデザインを使わせる代わりに、ライセンス料をとっているわけだが、かなりの低率でも、ボリュームがとてつもなく大きいだけに、相当の利益を上げていることは想像に難くない。しかも、全世界で数十人いるデザイナーの創造性が価値の源泉であり、製造や流通は基本的にはライセンスを与えられた業者の仕事であるため、サンリオ自身にコストがかかるわけではない。すなわち、非常に付加価値生産性の高いビジネスモデルと言える。(ただし、その半面、キティちゃんが使われるのは衣類、文具、雑貨品など低価格品が主なため、自動車産業のような「裾野の広がり」、産業連関効果はあまり期待できないだろう。)

 

番組では、世界各国のキティちゃん愛好家の購入動機として、①色がピンクであること、②何にでも合うこと(適応力があること)の2つを挙げていた。私には、特に後者のポイントが興味深かった。

 

私は、これまでキティちゃんに特別強い関心を抱いたことはなく、彼女(?)が着ているものや、体の格好はバリエーションがあるが、顔はつねに同じだと思っていた。確かに、二代目のチーフデザイナーまでは、初代の「顔をいじっちゃいけない」という方針を墨守していたようだ。しかし、現在の三代目(山口裕子)になり、顔の周りの太くて黒い輪郭をなくすなど、顔のデザインを変えてもよいことになった。それによって、海外のマーケットの多様なニーズに合わせたデザインがしやすくなったという。

 

しかし、そうは言っても、いくらでも変えてよいとなると、キティちゃんがキティちゃんでなくなる。番組では「信念と柔軟性の絶妙なバランス」という言葉が出てきたが、そこが難しい。

 

最近もつぎのようなことがあった。ヨーロッパのサンリオが、ロックバンドのKissとコラボ商品を作ることになったとき、バンドメンバーの一人、ジーン・シモンズのトレードマークである長い舌をキティちゃんでどう表現するかが問題になった。シモンズは、舌が描かれないのならこの話はなかったことにすると言い、サンリオのイタリア人デザイナーは、キティちゃんに舌を入れると、「キティちゃんに口は描かない」(キティちゃんは目で表現するキャラクターであり、口を描くと、目から口に注意が移ってしまうのでよくない)という社内ルールに反するのではないかと悩む。結局、口は描かずに舌だけ描き入れることにして、東京本社のチーフデザイナー山口氏のOKを得ることができた。

 

時代や環境の変化に応じて変えるべきことと、変えるべきではないこと、その見極めこそ企業の経営戦略で最も重要な意思決定だ。それは、おそらく「国のかたち」についても言える。20年以上続く日本経済の低迷も、改革が不十分だからという声がずっとある。しかし、一方で変えるべきでないことまで変えてしまっていないか、両面からの冷静な分析が必要だ。

 

*冒頭の写真は、イタリア、ヴェネチアにて、下の写真は、フランス、ル・ピュイ・アン・ヴレにて。

 

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