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Welcome(2009年、フランス映画) [映画]

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この映画の舞台は、フランス北部の港町、カレ(Calais)だ。英仏海峡に面したこの町からはイギリス行きのフェリーが就航しており、近くには英仏海峡海底トンネルの入口もある。そうした地理的条件もあって、この町にはイギリス渡航を目指す多くの難民、不法滞在者(sans-papiers:正規のパスポートや在留許可証を持たない者の意)が留まっている。クルド族の少年ビラル(Bilal)もそうした一人だ。彼は、一足先にロンドンに移住した友人一家の娘ミナ(Mîna)に激しく恋をしており、彼女に会いたくて、何としてもイギリスに渡りたいと望んでいる。一度目は、手配師(passeur)を使って、仲間とともにトラックの荷台に潜り込んで渡英を試みるが、警察官に見つかってしまう。そして、仮釈放された彼は英仏海峡を一人で泳いで渡ることを決意する。一方、ミナの父親は、娘を親戚のレストラン経営者の男と結婚させることにしており、ビラルとミナが連絡を取り合うことを許さない。

 

ビラルとミナがストーリーの縦糸だとすれば、横糸はカレに住むフランス人夫婦、シモン(Simon)とマリオン(Marion)だ。「夫婦」と言ったが、二人は既に別居しており、離婚手続が進行中だ。離婚の理由は映画ではよく分からないが、特に何事かで派手にもめているという風ではなく、離婚前も後もそれなりに話し合える仲だ。シモンは、若いころは優秀な水泳選手としてならしたが、今は地元のプールで水泳コーチをしている。マリオンは中学教師だが、不法滞在者へ炊き出しのボランティアをするなど、社会問題への関心も強い。

 

映画の最初の方に、シモンとマリオンがスーパーのレジの行列で偶然再会するシーンがある。そのとき、スーパーの入口付近で店員と不法滞在者の間で小競り合いが起きた。店員が不法滞在者の入店を拒んだのだ。マリオンはそれを見るや、「どうして彼らを入店させないのか」と抗議する。店員は「他のお客さんの迷惑になるからだ。ここは私たちに任せてくれ」と言う。それに対し、マリオンは「私もお客だけど、ちっとも迷惑なんかないわ。そうでしょ、みんな」と他のお客に同意を求める。一方、シモンは後ろで、困惑しながら黙って成り行きを見つめるだけだった。

 

しかし、人生は皮肉なもので、クルド人少年ビラルの人生に深く入り込んでいったのは、正義漢のマリオンではなく、ノンポリのシモンの方だった。二人の出会いは、シモンが働く水泳プールにビラルが訪れ、レッスンを受けさせてほしいと申し出たことだ。シモンは、ビラルの意図をそれなりに察し、初めは警戒心を怠らず、やや距離を置いた接し方だった。しかし、彼の熱心な練習態度に少しずつ気持ちが緩んでいったのか、ある晩、ビラルとその友人を自宅に泊めるまでになる。フランスでは、不法滞在者の手助けをすることは違法となっており、アパートの隣人の通報で、シモンは翌朝、警察から出頭を求められる。彼は、この後も、ビラルが他の不法滞在者からボコボコにされたとき(トラックによる最初の渡英が失敗したのは、ビラルの落ち度が原因だった)、自宅に彼をかくまい、再び警察に呼び出される。そして、シモンは、ビラルのことを「自分の息子だ」と言うのだ。

 

ところで、映画のタイトル「Welcome」は、警察にシモンの「犯罪」を通報したアパートの隣人の玄関口に敷かれたマットに書かれた文句だ。実に皮肉が効いている。さて、1回目の失敗に懲りず、再び寒中、英仏海峡を泳ぎ始めたビラルの運命は? ミナの結婚の行方は? シモンは? マリオンは? 安直なハッピーエンドはどこにもないが、深く心に染み入る結末だった。

 

*私は、フランス滞在中にこの映画のDVD(セールス中だった)を購入したが、日本語版も君を想って海をゆく」というタイトルで出されているようだ。

 


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