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「鑑定士と顔のない依頼人」(The Best Offer、2013年、イタリア映画) [映画]

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昨日(1221日)の朝、久しぶりに映画を観に行った。トルナトーレ監督の最新作「鑑定士と顔のない依頼人」だ。最初から最後までスクリーンに見入ってしまった。感想は、良い意味で「結局何だったんだろう?」というミステリアスなものだ。おそらく主人公のヴァージル・オールドマンも同感なのではないだろうか。

 

     *     *     *

 

ヴァージル・オールドマンは高名な美術品鑑定士であり、かつ美術品のオークショニア(オークションを仕切る人)でもある。生身の女性とつき合ったことはなく、独身、しかし女性に興味がないわけではなく、自宅の秘密部屋には女性肖像画のコレクションがところ狭しと展示されている。それらの作品の少なくとも一部は不正な手段で入手したものだ。すなわち、自分が仕切るオークションで、自分がほしい作品があると、本来の価値より低い作品であるかのように偽って紹介し、友人の元・画家ビリーに低価格で落札させ、あとから買い戻していたのだ。(ちなみに、ビリーは画家時代、その作品をヴァージルから酷評され、それがきっかけで画家をやめてしまったという来歴がある。)

 

そんなヴァージルのところに、ある日、不思議な電話が入る。見知らぬ若い女性から、両親が遺した美術品の数々を鑑定してほしいという依頼だった。ヴァージルは、最初、乗り気ではなかったが、やがてこの依頼にどんどんのめり込んでいく。ミステリアスなことが多く、それが彼の好奇心を刺激したのだろう。自らをクレアと名乗る依頼人の女性は、決して自分の姿を見せない。屋敷のなかにいて、声も出すのだが、他人がいるときは自分の部屋からは決して出ない。「広場恐怖症」なのだという。もう一つ、ヴァージルが興味を持ったのは、依頼人が住む屋敷の地下室で見つかった古い歯車だ。何かの部品と思われるが、それが何かはわからない。(さらに不思議なのは、この何かの部品は、彼が屋敷を訪ねるたびに新しいものが見つかることだ。)

 

ヴァージルはこの歯車を、機械修理が得意な友人のロバートのところに持ち込む。彼もそれに興味を抱き、おそらく18世紀の機械人形(automaton)ではないかと言う。そして、ヴァージルから新たに見つかった部品が提供されるたびに、オートマトンを組み立てていく。

 

このほか、クレアが住む屋敷の元・使用人フレッド、屋敷近くのカフェでつねにいろんな数字を唱えている謎めいたこびと女性、ロバートの恋人サラなどが名脇役として登場する。

 

     *     *     *

 

映画のあらすじに関する紹介はこの程度にしておこう。何せ、この映画の魅力の一つはラストの大どんでん返しにあるからだ。しかし、私自身は、少なくともクレアに関しては、最後まで何かやらかすんじゃないかと思って見ていた。というのは、映画の前半から、彼女の言動はあまりに謎めいていて、不安定で起伏が激しいものだったからだ(ヴァージルが彼女の虜になっていくのもそれが一因だ)。だから、どんでん返しの意外性がこの映画の最大の魅力ではない。また、どんでん返しがあるのは確かだが、正確に何が起きたのか、われわれに明示的に示される訳でもない。「エッ? 何があったんだろう」というのが、おそらく多くの観客が率直に感じたことではないだろうか。

 

私にとって、この映画が間違いなく「気になる」映画なのは、恋愛や人生の不可思議さ、不可解さであり、その正体がつかめないという不安感だ。この映画のあらすじを一言で言えば、若い美人女性に恋をした哀れな中年男の物語、となるかもしれない。そう言ってしまえば確かに陳腐だ。しかし、そういう人に私は言いたい。では、それがわかっていても、なぜ人は過ち(?)を繰り返すのか、と。それを暗示させるようなセリフが映画の前半に出てくる。

 

“There is always something authentic concealed in every forgery.”(どんな贋作でも、その中には常に何かしら本物が隠されているものだ。)

 


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