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若者の年金観 [経済]

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ここのところ、ちょっと理由があって日本の社会保障制度について勉強している。86日に出された社会保障制度改革国民会議「社会保障制度改革国民会議報告書~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~」も読んでみたが、メンバー間の意見の相違や政権与党のこれまでの立場に配慮したのか、あいまいで、現状肯定的な記述が目立ったのは少々残念だった。対立する見解に関しては、明確に両論併記的な記述をした方が、国民にとってよりわかりやすかったのではないか。

 

例えば、年金に関して次のように述べて、年金財政の長期的な持続可能性は確保されている、としているが、さまざまな懸念や反論がある中で、もう少していねいに説明してほしかった。例えば、今後、負担者数に対して受給者数が大きく増加する中で、一人当たりどの程度の受給額が確保されるのか、ふつうに考えれば疑問に思うのではなかろうか。

 

日本の年金制度は、2004(平成16)年改革の年金財政フレームで、将来的な負担の水準を固定し、給付を自動調整して長期的な財政均衡を図る仕組みとしたことで、対GDP比での年金給付や保険料負担は一定の水準にとどまることとなった。その意味において、今後の社会経済情勢の変化に対応して適時適切な改革を行っていくことは必要であるものの、基本的な年金財政の長期的な持続可能性は確保されていく仕組みとなっている。(p. 40

 

また、年金制度一元化、被用者保険の適用拡大、支給開始年齢の引き上げ、世代間の不公平論などの厄介な課題に関しては、簡単に結論が出せないことはわかるが、もう少し明確に問題点を特定できなかっただろうか。

 

ところで、年金教育に関して次のような記述があったのは少々引っかかった。年金や社会保障に関する説明は結構難しい。制度自体は客観的に記述できるはずだが、それをどのような立場、観点で見るかによって説明の仕方も異なってしまう。例えば、第3号被保険者の問題は、個人をベースに考えれば筋が通らない話だが、家族(夫婦)をベースに考えれば不自然なことではない。年金の「教育」や「広報」というのは決して価値中立的ではないのである。(もっと言えば、厚生省自身、これまで年金制度に関する説明はさまざまな「変節」を遂げてきている。)

 

残念ながら、世間に広まっている情報だけではなく、公的に行われている年金制度の説明や年金教育の現場においてさえも、給付と負担の倍率のみに着目して、これが何倍だから払い損だとか、払った以上にもらえるとか、私的な扶養と公的な扶養の代替性や生涯を通じた保障の価値という年金制度の本質を考慮しない情報引用が散見され、世代間の連帯の構築の妨げとなっている。年金教育、年金相談、広報などの取組については、より注意深く、かつ、強力に進めるべきである。(p. 45

 

この記述に触発されたのだが、今時の若者はいったい年金について、どの程度知っており、どのように考えているのだろうか。ネットでちょっと検索した限りでは、ちゃんとした調査はあまりないようだ。実際、「ちゃんとした調査」は結構難しいと思う。例えば、「考え」を聞く場合、どのような設問(情報の与え方)をするかで答えはかなり異なるだろうし、遠い将来のことを若者がどこまでコミットできるかも疑問である。(私自身、若いころは年金のことなどほとんど考えておらず、30代に8年間海外生活をした際は、日本に帰ることはもうあるまいと思って日本の年金は払っていなかった。)

 

ただ、多少なりとも手がかりを得たいと思い、先々週、学部ゼミ生24名に対し、下記の簡単なアンケートを行った。サンプリングの仕方、サンプル数、設問の仕方等からして、およそ代表性のある調査とは言えないが、一つの参考として掲げておく。

 

*     *     *

 

日本の公的年金に関するアンケート(当てはまるもの1つに○)

 

1.(基礎知識)日本の公的年金制度の基本的な仕組みについてどの程度知っているか。例えば、「国民皆年金」であること、就業状態によって加入する年金が異なること(自営業主、一部の非正規労働者、無業者などは「国民年金」、民間企業の雇用労働者は「厚生年金」、公務員等は「共済組合」)、年金給付の原資は毎月徴収される保険料と税金であること、「国民年金」は保険料も給付額も定額だが、「厚生年金」、「共済組合」では保険料も給付額も就労時の報酬額に原則として比例していること、など。

a. 上記以外のことも含め、よく知っている。 0

b. 上記の程度のことはよく知っている。 4

c. 上記の程度のことは多少は知っている。 15

d. 上記のことは知らないが、他のことなら多少は知っている。 1

e. ほとんど何も知らない。 4

 

2.(自分の親の老後に関する考え方)自分の親の老後に関し、どのように考えているか。

a. 経済的にも、生活面でも(介護など)、自分ができるだけ支えたい。 7

b. 経済的にも、生活面でも(介護など)、自分がある程度は支えたい。 15

c. 経済的にも、生活面でも(介護など)、自分はできるだけ支えたくない。 2

d. 経済的にも、生活面でも(介護など)、自分は全く支えたくない。 0

e. 現時点ではわからない。 0

 

3.(自分の老後に関する考え方)自分自身の老後に関し、どのように考えているか。

a. 公的年金をはじめとする社会保障制度による支えを一番あてにしている。 2

b. 家族(子供や配偶者)による支えを一番あてにしている。 2

c. 自分自身の貯蓄等による支えを一番あてにしている。 9

d. 上記の適度なミックスによる支えを一番あてにしている。 9

e. 現時点ではわからない。 2

 

4.(世代間格差)今後、人口の高齢化が急速に進む中で、世代間で年金負担額(現役時代に負担した保険料総額)と年金給付額(引退後に受給する給付総額)のバランスが大きく変わると予想されている。例えば、1955年より前に生まれた世代は「年金負担額<年金給付額」となるのに対し、それ以降に生まれた世代は「年金負担額>年金給付額」となる。この点をどう考えるか。

a. 積極的に評価できる。 0

b. どちらかと言えば評価できる。 2

c. どちらかと言えば問題である。 8

d. 大いに問題である。 9

e. どちらとも言えない。 5

 

5.(低賃金労働者への対応)「厚生年金」の場合、「基礎年金」と呼ばれる定額部分と現役時の保険料納付額にほぼ比例した「報酬比例部分」の2つで構成されており、現役時に低賃金であった者は、引退後の年金額も少ない。また、短時間雇用者や雇用期間が短い者は、条件の良い「厚生年金」に加入できず、給付額が少ない「国民年金」に加入せざるを得ない。さらに、「国民年金」加入者の中には、低収入のため毎月の保険料(今年度の場合、15,040円)を払えない者も多い(2011年度の納付率は58.6%)。こうしたことから、今後、低年金、無年金の者が増える可能性が高い。こうした問題について、どのように考えるか。

a. 現役時に保険料を少ししか払わなかった者が、年金の受給額も低いのは当然である。 3

b. 上のaの立場に近いが、低年金受給者に対して最低限の給付は保障した方がよい。 17

c. 下のdの立場に近いが、納付額によって受給額に差を付けることまでは否定すべきでない。 2

d. 現役時の保険料納付額に関わらず、年金の受給額は同額とすべきである。 1

e. どちらとも言えない。 1

 

6.(低生産性企業等への対応)「厚生年金」では、年金保険料は労使が折半して払うことになっている。このため、経営が苦しい一部の中小企業では「厚生年金」に加入せず、従業員に(企業負担がない)「国民年金」に加入させるといった事例もある(本来は法律違反)。また、短時間労働者や不安定就労者は「厚生年金」の適用対象ではないので、これらの従業員を多く雇用する企業は、事業主としての保険料負担を合法的に回避することができる。こうした問題について、どのように考えるか。

a. 全ての企業が、その規模、経営状況や従業員の雇用形態等に関わりなく、給与の一定割合の保険料を納付すべきである。 4

b. 上のaの立場に近いが、保険料の納付が困難な企業に関しては一定の配慮をすべきである。 7

c. 下のdの立場に近いが、企業の事情による違いがあまり大きくならないよう配慮すべきである。 4

d. 同じ年金制度を全ての企業に適用するのはそもそも無理があるので、企業の規模、経営状況、従業員の雇用形態等によって、年金制度は別建てとすべきである。 5

e. どちらとも言えない。 4

 

<質問は以上です。ご協力どうも有り難うございました。>

 

*     *     *

 

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*写真はいずれも、20136月に撮影した神田川沿いの桜の木。


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