SSブログ

「社外取締役」考 [経済]

2013_06Zoushigaya1601.JPG 

アベノミクスの「第3の矢」とされる文書、「日本再興戦略 – JAPAN is BACK –」(2013614日)を見ていたら、社外取締役の導入を促進する旨の指摘があった。

 

「会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する【次期国会に提出】」(p. 12)。

「攻めの会社経営を後押しすべく、社外取締役の機能を積極活用することとする。このため、会社法改正案を早期に国会に提出し、独立性の高い社外取締役の導入を促進するための措置を講ずるなど、少なくとも一人以上の社外取締役の確保に向けた取組を強化する」(p. 28)。

「国内の証券取引所に対し、上場基準における社外取締役の位置付けや、収益性や経営面での評価が高い銘柄のインデックスの設定など、コーポレートガバナンスの強化につながる取組を働きかける」(p. 28)。

 

民間企業もなめられたものである。何だか社外取締役がいないと、まともな経営ができないとの見方が見え隠れする。こうした世間の動向にも配慮したのか、同じ614日に開かれたトヨタの株主総会では、同社としては初めて、3名の社外取締役(日本生命保険相談役、元・国税庁長官、元・ゼネラル・モーターズ副社長)が選任された。

 

私は、社外取締役の導入(しかも、たかが一人の!)に特段反対するつもりはない。しかし、導入したら企業経営がよくなるといった理屈はほとんど実証的な根拠がないと思っている。社外取締役がいなくて経営がうまくいっている会社もあれば(例えば、これまでのトヨタはそうだった)、社外取締役が多数いても経営がうまくいっていない会社もある(例えば、前回の記事で取り上げたソニーだ)。大学の講義で、「社外取締役は必要だと思うか」と尋ねたところ、「オリンパスの不正経理事件のようなことを防ぐには、必要だと思います」という学生がいた。彼が間違っているとは言わない。しかし、実を言えばオリンパスにも社外取締役がいた。いたどころか、「飛ばし」に関与した元外資系証券の債券部長が社外取締役だったというから呆れてしまう。

 

社外取締役がなぜ機能しないかは、ちょっと考えれば合点がいく。私は、重要な意思決定を行う人間は、つぎの3つの要件を備えていなければならないと、かねてより考えている。(2013618日付け、当ブログ「統一球問題とガバナンス」を参照。)

 

①適切な意思決定を行うのに必要な情報を持っているか、

②適切な意思決定を行うのに必要な能力を持っているか、

③適切な意思決定を行う動機を持っているか。

 

①について言えば、社外取締役が社内取締役以上に当該企業の情報を持っているとは考えにくい。特に、現場の情報は社内取締役でもどの程度把握しているか疑わしい。

 

②に関しては、優れた社外取締役であれば、社内取締役より能力があるということは有り得る。しかし、能力があっても必要な情報がなければ、適切な判断はできない。また、そもそも能力的に優れた社外取締役が選任されるという保証もない。社長の知己から選ばれることも多いが、その場合は、単なるイエス・マンになってしまうおそれがある。

 

さらに重要なのは③の要件だ。社外取締役が社長、あるいはその他の社内取締役と親しい関係にある場合、きちんとモノを言えるかどうか。そもそも当該企業に対し、社内取締役や従業員と同程度かそれ以上の利害関心やコミットメントを持っているかどうか。よほど例外的に強い使命感を持っている人でもなければ、答は一般にNoであろう。

 

もちろん、社内取締役だからといって①~③の要件を満たしているとは限らない。社長が自らの保身のため、優秀なライバルを役員に登用せず、無能なイエス・マンを重用しがちだとしたら、何をか況んやである。もし、社外取締役がそうした人事にストップをかけられるなら意味があると思うが、果たしてそんなことのできる社外取締役はいるだろうか?

 

「結局は制度ではなく、人の問題だ」という言い方もできる。それは答ではなく、逃げだと自分でも思っているが、残念ながら今はそう言うしかない。

 

* 写真は、雑司ヶ谷墓地にて。

2013_06Zoushigaya1643.JPG


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。