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CSRとCSV(3) [経済]

2012_12TokyoTower0163.JPG 

(承前)

 

23週間前だろうか、日本のメガバンクMから送られてきた広報誌にざっと目を通していたところ、ある記事が目に止まった。その金融グループに属するシンクタンクのエコノミスト氏が連載している経済動向に関する解説コラムである。ていねいに読んだわけではなく、もはや手許にないので、不正確な点があるかもしれないが、そのエコノミスト氏は「アベノミクス」について「違和感」を感じているという。違和感の由来は、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」のうち、特に①と②は国が民間を何とかしようという「古い歌」をまたもや聞かされているようで、時代に合わない、という論旨であった。

 

エコノミストの中には、①、②は短期的な効果しかなく、③こそが本丸だという意見が多いことは私も承知している。一方、私自身は、①については評価しており、②、③となるにつれ、その内容に懐疑的だが(特に、それこそ「古い歌」と言うべき「規制緩和・改革」論に対して)、“It depends.” すなわち、詳細を待ちたいと思っている。

 

ところで、正直言って私は「アベノミクス」に「違和感」を感じたというエコノミスト氏の主張に対して「違和感」を感じてしまった。それは、民間部門の力だけで日本経済を立て直せるという、根拠のない強がりである。なぜ「根拠のない強がり」と言うのか、下の2枚のグラフを見てほしい。いずれもシンガポールでの私の講演で用いたものである。

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上のグラフは、1997年から2012年にかけて、日本の名目GDPが約1割減少したこと、一方、実質GDPは約1割増加したので、GDPの物価に相当するGDPデフレーターは2割近く減少したことを示している。つまり、この間、日本では、他国がおよそ経験したことのないようなデフレが続いたのである。デフレのもとでは、将来への投資を先送りするのが合理的だ。なぜなら当面収益が見込めない上に、費用負担は先送りするほど節約できるからだ。実際、この間、民間設備投資は名目で約2割減少し、実質でもほぼゼロ成長だった。

 

物的資本に対する投資が減れば、一般に、人的資本に対する投資も減る。もう少し正確に言うと、物的資本と補完関係にある熟練労働力への需要は減り、代替関係にある不熟練労働力への需要は増える。実際、下の方のグラフが示すように、この間、失業者は24%増え、非正規雇用労働者は57%増えたのに対し、正規雇用労働者は13%減少した。

 

このような状況がこれ以上続けば、日本の経済・社会は将来にわたって深刻で取り返しのつかないダメージを受けるであろう。投資がないところに成長はあり得ないのだ。しかるに、民間企業は国内の投資環境の悪さばかりを言いつのってなかなか動こうとしない。日本に対する海外からの直接投資が(GDP比でみて)まだ少ないことは事実だが、彼らは日本に雇用機会を生み出し、収益もあげている。女性雇用の活用も、概して言えば日本企業よりずっと進んでいる。外資系企業にできて、日本企業にできないとすれば、それは環境要因ではなく経営力の問題というしかないのではないか。

 

CSRCSVというのなら、まずもって雇用機会や能力開発機会を生み出すことに注力すべきである。私は、日本企業に対してそのことを強く訴えたい。

 

冒頭の写真は、たそがれ時、東京タワーから新宿方向を望む(201212月撮影)。

 


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