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新美南吉「おじいさんのランプ」 [読書]

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東芝の白熱電球製造中止(20103月)の広告を眺めながら思い出した童話がある。確か小学校の国語の教科書に載っていた新見南吉の「おじいさんのランプ」(1942年)だ。話のポイントはよく記憶しているが、念のため図書館で借りて再読してみた(『新美南吉童話全集第二巻 おじいさんのランプ』大日本図書、1960年)。

 

*   *   *

 

話の主役は、日露戦争のころ十二、三の少年だった巳之助(みのすけ)だ。彼はまったくのみなし子だったが向上心が強く、人力車引きの仕事で峠を越えて大きな町に行ったとき、「花のように明るいガラスのランプ」があちこちに灯っているのを見て衝撃を受ける。そしてランプ屋の主人に掛け合って、自分の村でランプを売ることと引き替えに、ランプを一つ手に入れる。ランプは最初売れなかったが、ひとたびその利便さが伝わると、巳之助の商売も繁盛し、自分の家を建て、家族も持つようになった。

 

ところが、やがて隣の町に電気が引かれ、自分の村にもいよいよ引かれることになった。

「以前には文明開化ということをよくいっていた巳之助だったけれど、電燈がランプよりいちだん進んだ文明開化の利器であるということはわからなかった。りこうな人でも、じぶんの職を失うかどうかというようなときには、ものごとの判断が正しくつかなることがあるものだ」(p. 22)。

 

村会で電気を引くことが決まると、巳之助は誰かを恨まずにはおれなくなり、何と自分がみなし子のときから世話をしてくれた区長さんの家に放火しようとする。しかし、放火のために持ってきた火打ち道具が湿っていて火がつかず、思わず舌打ちする。

「マッチを持ってくりゃよかった。こげな火打ちみてえな古くせえもなァ、いざというとき間にあわねえだなあ」(p. 25)。

 

この一言で、巳之助は我に返る。

「ランプはもはや古い道具になったのである。電燈というあたらしい、いっそう便利な道具の世の中になったのである。それだけ世の中がひらけたのである。文明開化が進んだのである。巳之助もまた日本のお国の人間なら、日本がこれだけ進んだことを喜んでいいはずなのだ。古いじぶんのしょうばいが失われるからとて、世の中の進むのをじゃましようとしたり、なんのうらみもない人をうらんで火をつけようとしたのは、男としてなんという見苦しいざまであったことか。世の中が進んで、古いしょうばいがいらなくなれば、男らしく、すっぱりそのしょうばいをすてて、世の中のためになるあたらしいしょうばいにかわろうじゃないか」(p. 26)。

 

巳之助は家に帰って、50くらいあったランプのすべてに石油を注ぎ、村の外れの大きな池に持っていった。そして、一つ一つのランプに火をともしては、岸辺の木にそれらをつるした。

「わしの、しょうばいのやめかたはこれだ」(p. 26)。

そして池の対岸に回り、一番大きなランプめがけて石を投げた。ついで二番目に大きなランプに。三番目に大きなランプを割ったとき、涙が浮かんで、もう狙いを定めることができなかった。

 

こうして巳之助はランプ屋をやめ、町に出て本屋になった。

 

*   *   *

 

この話は、巳之助おじいさんが、孫の東一(とういち)君に向かって思い出話を語るという形式で書かれている。話し終わったあと、東一君がおじいさんに(ランプを割ったり、捨て去ったりして)「損しちゃったね」と言ったのに対し、巳之助はこう答える。

 

「わしのやりかたはすこしばかだったが、わしのしょうばいのやめかたは、じぶんでいうのもなんだが、なかなかりっぱだったと思うよ。わしのいいたいのはこうさ、日本が進んで、じぶんの古いしょうばいがお役にたたなくなったら、すっぽりそいつをすてるのだ。いつまでもきたなく古いしょうばいにかじりついていたり、じぶんのしょうばいがはやっていたむかしのほうがよかったといったり、世の中が進んだことをうらんだり、そんな意気地のねえことはけっしてしないということだ」(p. 30)。

 

この童話に関する私の記憶は、池の周りにたくさんのランプを灯し、石を投げて割るという印象深いシーンで終わっていたが、今回再読して、孫に随分立派なことを語っているんだなと感心した。優れた童話というのは、本来、大人に読み聞かせるべきものなのかもしれない。

 


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