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永井荷風「日和下駄」-百花園(2) [散歩]

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百花園の見学は1時間ほどで終えたが、今回の散歩にはもう一つ目的があった。(旧)寺島町界隈(百花園のある東向島や、八広、京島など)を歩くことだ。この辺りは、知る人ぞ知る、東京の「下町」でも最もディープなところだ。私は住んだことはないが、いささかの思い出がある。

 

二十歳前後の頃(もう30数年も前のことだ)、この地区である国会議員のポスター貼りのアルバイトをしたことがある。迷路のような路地に長屋が並び、町工場や個人商店も多かった。チマチョゴリの制服を着た朝鮮学校の女生徒もよく見かけた。今は、どうなっているのだろうかと興味があった。

 

かつての路地や家屋は基本的には残っていたが、小洒落た一戸建てに改築された住戸や小さなマンションも結構見かけた。また、京成曳舟駅の近くには、この界隈と不似合いな高層マンションが建っていた。驚いたのは、その近くの銭湯が閉鎖されていたことだ。個人経営の商店もかなり減ったようだ。適当な地場の定食屋で昼食をとろうと思っていたがなかなか見つからず、結局、ヨーカドーの中の大手チェーンがいくつか入ったコーナーで簡単な丼物を食べた。正直言って、寂しかった。

 

この界隈は、例のスカイツリーのご近所で、どこにいてもちょっと歩けばすぐ目に入る。スカイツリーを目指すのなら、地図なしで、道に迷うことなくたどり着ける。実際、私もスカイツリーを目標に歩き、その下にある商店街(ソラマチ)に行ってみた。中はかなり混んでいたが、一方、スカイツリーの外にある近所の飲食店は空席が目立った。「一人勝ち」(winner-take-all)現象が起きているな、と思った。

 

せっかくスカイツリーに来た観光客はどこで食事をとるだろうか。スカイツリー内のレストランがよほど高い、まずい、混んでいるといったことでもないかぎり、スカイツリーの中に決まっている。一番と二番の間で価格や質の差がごくわずかであっても、いずれか一つしか選べない(この場合、昼食をとるのは一カ所だけ)としたら、多くの人の需要は二番ではなく一番に向かう。

 

実は、(旧)寺島町界隈を歩きながら、ずっと考えていたことがある。それは日本経済の将来だ。ある経済学者が日本経済の「失われた20年」に関する優れた研究書を書いている(深尾京司『「失われた20年」と日本経済』日本経済新聞出版社、2012年)。いくつかの重要な事実発見の中で、著者は、日本では低生産性部門が縮小し高生産性部門が拡大するという意味での「経済の新陳代謝機能」が著しく低迷していると指摘する。その処方箋については抽象的、一般的にしか書かれていないが、私なりにそれを翻訳するなら、(旧)寺島町界隈の個人商店や町工場は、「生産性の高い」大企業や外資系企業、「有望な独立系企業」、例えばスカイツリーのソラマチなどによって淘汰されるべきだということだ。机上の理屈としてはYes、しかし、そう単純に割り切っていいものか、と私はずっと反芻しながら歩いていたのだ。

 

そして、ソラマチのあとは、言問橋を渡り、浅草寺に立ち寄って帰宅した。

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