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パスカル「パンセ」-ピレネー山脈のこちら側と向こう側 [パンセ]

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社会科学者の中には、「文化」要因を強調するグループと軽視するグループがある。抽象的な一般理論志向が強い経済学者は大半が後者だが、社会学者や経営学者の間では後者が多いようだ(例えば、「日本的経営」という言葉はよく使うが、「日本的経済」とはあまり言わない)。私自身は、国による文化の違いは確かに存在すると思うが、社会科学分野で行われている「文化」分析については納得できないことも多く、あまり満足していない。一例を挙げれば、G・ホフステード『多文化世界』(1995年、有斐閣)だ。

 

それはともかく、ロンドン・オリンピックを見ながら、国情や文化の違いをいろいろな機会に感じたのは事実だ。例えば、女子サッカーで日本チームの4戦目の相手はブラジルだったが、ラテン系女性の激しい気性や言動はテレビの画面からもよく伝わってきた。まったく、なでしこたちは、こういう相手によく勝ったものだと思う。

 

また、毎度のことながらサッカーのルールというか審判のジャッジにはかなりの幅がある。相手を倒したとき、ファウルをとられることも、とられないこともある。ファウルをとられる場合も、イエローカードやレッドカードが出されることもあれば、出されないこともある。「反則」の程度によって使い分けているのだろうが、その「程度」の判断はかなり主観的だ。こうしたシーンを何度も見るたびに、サッカーというスポーツは国際社会の縮図だなあとつくづく思ってしまう。国際ルールというものが一応存在しても、その解釈や適用はしばしば便宜的に行われるからだ。

 

パスカルの「正義」に対する見方は、まさにこうした事実認識に基づいている(B294S94L60)。

 

・(もし不変の正義を知っていたなら)「人々は、世界のあらゆる国とあらゆる時代とを通じて、不変の正義が樹立されているのを見たことだろう。ところが、そのかわりに、われわれが見る正義や不正などで、地帯が変わるにつれてその性質が変わらないようなものは、何もない。緯度の三度の違いが、すべての法律をくつがえし、子午線一つが真理を決定する。数年の領有のうちに、基本的な法律が変わる。法にもいろいろの時期があり、土星が獅子座にはいった時期が、われわれにとって、これこれの犯罪の起原を画しているのである。川一つで仕切られる滑稽な正義よ。ピレネー山脈のこちら側での真理が、あちら側では誤謬である。

«On la verrait plantée par tous les États du monde et dans tous les temps, au lieu qu’on ne voit rien de juste ou d’injuste qui ne change de qualité en changement de climat. Trois degrés d’ élévation du pôle renversent toute la jurisprudence. Un méridien décide de la vérité. En peu d’années de possession les lois fondamentales changent. Le droit a ses époques, l’entrée de Saturne au Lion nous marque l’origine d’un tel crime. Plaisante justice qu’une rivière borne ! Vérité au-deçà des Pyrénées, erreur au-delà.»

 

・「このような混乱から、ある人は、正義の本質は立法者の権威であると言い、他の人は、君主の便宜であると言い、また他の人は、現在の習慣であると言うことが生じる。そしてこの最後のものが最も確かである。理性だけに従えば、それ自身正しいというようなものは何もない。すべてのものは時とともに動揺する。習慣は、それが受け入れられているという、ただそれだけの理由で、公平のすべてを形成する。これがその権威の神秘的基礎である。」

«De cette confusion arrive que l’un dit que l’essence de la justice est l’autorité du législateur, l’autre la commodité du souverain, l’autre la coutume présente. Et c’est le plus sûr. Rien, suivant la seule raison, n’est juste de soi, tout branle avec le temps. La coutume fait toute l’équité, par cette seul raison qu’elle est reçue. C’est le fondement mystique de son autorité.»

 

・「習慣は、かつては理由なしに導入されたが、それが理にかなったものになったのである。もしもそれにすぐ終わりを告げさせたくないのだったら、それが真正で、永久的なものであるように思わせ、その始まりを隠さなければならない。」

«Elle a été introduite autrefois sans raison, elle est devenue raisonnable. Il faut la faire regarder comme authentique, éternelle et en cacher le commencement si on ne veut qu’elle ne prenne bientôt fin.»

 

制度や慣行を人々の経済合理的行動から説明したり、社会的効率性の観点から評価したりしようとする「新制度派」経済学は、しばしば既存制度の維持、合理化のために使われるが、なるほど、使いようによっては制度改革のロジックとしても使える。それが、分析者のイデオロギーや主観であっては困ると思うが・・・。

 

*写真はパスカル生誕の地、フランス、クレルモン・フェランにて。パスカルの父はここで裁判官をしていた。

 

当初「日本チームの初戦の相手はブラジルだったが」と書きましが、ブラジルは決勝トーナメントの初戦の相手であって、予選からは4戦目でした。したがって、「日本チームの4戦目の相手はブラジルだったが」と訂正しました。(2012年8月14日)
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