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ドラ・トーザン「ママより母」 [フランス]

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フランスについて日本語で書かれたエッセイ風の読み物はかなりの数に上るが、その多くは旅行や芸術、料理などに関するもので、社会・経済について書かれたものは少ないと思う。また、社会・経済について書かれたものも、表面的、一面的な記述だったり、エピソード主体で統計的な裏付けがなかったり、逆に統計データを示しているが実感がわかなかったりと、歯がゆく感じるものが多い気がする。

 

そうした中で、ドラ・トーザンの『ママより女』(小学館、2011年)はおもしろくて一気に読め、いくつか学ぶ点があった。タイトルは、フランスの女性は、母であるより妻、妻であるより女であることを優先するのに対し、日本の女性は、女であるより妻、妻であるより母であることを優先するとの著者の見立てに基づく。

 

著者は、冒頭で5つの「フレンチ・パラドックス」を提起している。

1)結婚が減り、働く女性が増えているが、子供は増えている。

2)肉や乳製品を多く摂取しているのに、心臓病は比較的少ない。

3)ヴァカンスをたっぷりとるのに、GDPは世界5位と高い。

4)男女の権利は平等だが、男は女に対してジェントルマンである。(「ジェントルマン」とは、女性を何かと褒めたり、ワインを注いだりすることのようだ。私は「ジェントルマン」ではないので、単なる「女好き」との違いがわからない。)

5)個人主義だが、大きな政府を支持している。

 

これらのうち、本文で主に取り上げているのは(1)で、それとの関連で(3)、(4)、(5)も触れられている。フランスの出生率は、1960年代後半から1990年代前半まで下がり続けたが(1994年に1.66)、その後反転し、2011年は2.02だ。その背景として、国からの充実した出産・家族手当が日本ではよく指摘される。私も、フランス滞在中にそうした日本での議論をフランス人に話したことがあるが、逆に「人は、お金で子供を産むだろうか」と切り返され、とっさに返答できなかったことがある。

 

トーザン氏は、出生率の回復は多くの要因が複合した結果だと判断しているようだが、たぶんそうなのだろうと私も思う。彼女が指摘しているのは、つぎの点だ。

 

・子育て支援策が充実していること(3年間まで現職復帰が保証された育児休暇、育児休暇手当、家族手当、0-3歳児用の託児所、35歳児用の公立無料幼稚園の充実など)、

・婚外子への法的差別がないこと(出生数のうち婚外子の割合は、1970年は7%だったのが、2011年は55.8%に達した)、

・週35時間労働(2000年)や年5週間のヴァカンス(1981年)など、ワーク・ライフ・バランスがとりやすいこと、

・フランス人は恋愛気質が強く、恋愛とセックスは密接不可分なこと(Durex社のGlobal Sex Survey 2004によると、年間のセックス回数は、フランスが137回で調査対象国中、最高、日本は46回で最低)。

 

本書でもう一つ印象的だったのは、フランス的過激さとも言うべき社会変革の激しさだ。もともとはカトリックの影響が強い国であり、法的に中絶や(協議)離婚が認められるようになったのは日本より遅く、1975年のことだ。男女雇用機会均等法が成立したのは1983年で、日本より少し早いだけだ。驚くのは、その後の変化の大きさだ。2010年には、上場企業では役員の40%以上を女性とするクォータ制も成立した。

 

また、日本にはないが、1999年から、PACS(連帯市民協約)という制度が導入されている。これは異性同士、同性同士を問わず、この契約を結ぶと所得税や相手の年金受け取り等で、正式な婚姻関係と同等の権利を享受できるというものだ。このため、結婚件数は2000年以降減り続ける一方で、パクス件数は増え続け、数年のうちに逆転する見込みだ。

 

2000年に導入された週35時間制も、当初は暴論視する意見もあったが、今ではすっかり定着してしまった。フランスという国は、だからおもしろい。

 

トクヴィルがつぎのように書いている。「フランスは今日の人間の運命によい影響を及ぼしたのだろうか、あるいは悪い影響を及ぼしたのだろうか。それは後世の判断に待つことになろう。しかし、よかれあしかれ、その影響が現に存在し、いまだに大きい、ということをだれも疑うことはできないだろう。・・・フランスは、他の国々がまだ頭の中で考えていたことや遠く漠然と夢見ていたことを思い切って口に出しただけでなく、早速それを試みることを厭わなかった」(アレクシス・ド・トクヴィル『旧体制と大革命』ちくま学芸文庫、1998年、pp. 15-16)。ちょっと悔しいが、一面の事実を言い当てている。

 

最後に、この本でなるほどと思ったり、本当だろうかと思ったりした点をいくつか備忘録として記しておきたい。

 

・フランスは、北欧とラテン系の国(イタリア、スペイン)のちょうど間に位置しているので、社会文化的にも両方の要素を持っている(pp. 26-27pp. 90-91)。

 

・映画、小説、シャンソン、詩のほとんどのテーマはアムール、愛。アムールの出てこないフランス映画は思い浮かばない(p. 51)。そして、アムールとセックスは切り離せない(pp. 62-63)。たとえ政治家でも不倫はスキャンダルにならない(p. 52)。

 

・フランスの経済格差は、もともと日本より大きい。中流階級は半分もおらず、就労人口のほぼ半分は税金を払えていない。貧困層への再分配を担っているのは中流層であり、その不満が高まっている(pp. 145-146)。

 

*著者のアムールに対する熱意はよく伝わった(笑)。そこで、フランスでアムールの小道具として欠かせないバラの花の写真を集めてみた。いずれもパリの花屋さんに並んだバラだ。色によってメッセージが異なるらしい。需要のあるところ、供給が生ずる。

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