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ディジョンのブフ・ブルギニョン [フランス]

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ディジョン(Dijon)は、フランス、ブルゴーニュ地方の中心都市で、ワイン、牛肉料理、エスカルゴ、マスタードなど食通の町として知られる。私が最初にこの町の名前に出会ったのは、昔、『愛と哀しみのボレロ』という映画を観たときだ。延々と流れるボレロの曲以外、内容はほとんど覚えていないが、なぜかディジョンという町が出てきたことは覚えている。つぎに出会ったのは、もっと最近で、数年前、東京のフランス語学校に通っていたときだ。フランス語の教科書では、数量表現を学ぶとき、よく料理のレシピ(フランス語ではrecette)が使われる。そのとき教わっていた先生はディジョンの出身で、ネットからプリントアウトした牛肉の赤ワイン煮bœuf bourguignon)のレシピを授業に持ってきた。

 

先生の最初の質問は「ブフ・ブルギニョンに合う飲み物は?」だった。私は勢いよく手を挙げて「ビール!」と答えたのだが、先生から「粗野なアメリカ文化に染まると、こうなるから困ってしまう」とやり込められた。この会話には多少の背景説明が必要だ。私は30歳になる直前、アメリカに留学したのだが、はじめての海外で、生活に関して何の予備知識もなく不安だった。しかし、有り難いことに、東京在住のアメリカ人家族がホスト・ファミリーとなって、渡米前の数ヵ月間、月に1回くらい家に呼んでくれ、アメリカの生活、文化に慣れてもらうというプログラムがあり、私はそれに参加した。

 

このプログラムのホスト・ファミリーの大半はアメリカの大手多国籍企業I社の社員であり、私のホストSさん一家もそうだった。最初に、ホームパーティーに呼ばれたとき、I社の日本人社員の一家も一緒だった。Sさんの奥さんが、「何を飲む?」と聞いてきたとき、海外通の日本人社員のお父さんは、「今日の料理は何? 肉なら赤ワインだし、魚なら白ワインだけど・・・」と答えた。それに対する、Sさんの奥さんの切り返しが奮っていた。「そんなの関係ないわ。自分が飲みたいものを飲めばいいのよ。」私は、これがアメリカ流プラグマティズムかとエラく感動し、それ以降、ずっとこの流儀でやってきていた。そしてこの話は、以前、フランス語のこのクラスでも話していた。

 

それがギャフンと一泡吹かされてしまったわけだ。実際、ブフ・ブルギニョンのレシピを見ると、この料理に合うのは、ブルゴーニュの〇〇の赤ワインだと、厳密に書いてあった。ブルゴーニュワインは、ブドウ畑の区画毎に地質が異なっており、ワインの種類も非常に細分化、差別化されている。それをさらにさまざまな料理との相性によって紐づけしている。そして、そうした蘊蓄に凝っている通(つう)やマニアが世界中にいる。たいしたマーケティング戦略だ。(ちなみに、日本ソムリエ協会が認定するソムリエ、アドバイザー、エキスパートの合計は、201211日現在、38,652人。一方、その日本酒版である日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会の唎酒師の認定者数は、20103月末現在、29,350人である。)

 

それに引き替え、日本人は緩いものだ。寿司は今や欧米でも立派な人気料理だが、寿司と合う飲み物は特定されていない。フランスでは、通常、キリンの一番搾りかアサヒのスーパードライが置いてあり、日本酒を置いているところもある。ただ、これは日本国内でもそうだが、特にどの種類のお酒でなければいけないとは言っていない。

 

念のために言っておくが、フランス人の方が味覚感覚に優れているということはないと思う。フランスの寿司チェーンで食べ終わった後、「コーヒーはいかがですか?」と言われたときには、エラく興ざめしたものだ。フランス人が、ブフ・ブルギニョンを食べるときにビールを飲むのが野蛮だというのなら、日本人は、寿司を食べてからコーヒーを飲むフランス人に同じことを言わなければならない。でも、われわれは呆れながらも、それを許してしまっているのだ。優しいというか、緩いというか、・・・多様性に寛容というか。

 

タイトルからは、かなり脱線してしまった。冒頭の写真は、ディジョンのレストランで食べたブフ・ブルギニョン、下の写真は前菜に注文したエスカルゴ(escargots)である。このときは大好きなビールを飲むのは控え、最初からワインを注文したが、選択は店の人に任せた。銘柄や味は覚えていない。

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