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吉田修一『横道世之介』(文春文庫) [読書]

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先月、吉田修一の小説『横道世之介』を読んだ。映画も観た。いずれも好感の持てる青春ものだ。舞台がH大学なのも良い。(小説では固有名詞は出てこないが、H大学であることは容易に推測できる。映画ではH大学の建物や標示、掲示などが出ていた。)これまで、大学生を取り上げた小説、映画の舞台というとW大学が目立っていたが(『青春の門』、『ノルウェイの森』など)、こうした多様化は良いことだ。

 

小説は、横道世之介(よこみちよのすけ)という一風変わった名前の若者が、H大学入学のため長崎から上京して過ごした最初の1年間を、ひと月につき一章、全12章で描いたものだ。入居したアパートで、入学式で、サークルで、教室で、・・・と知り合いの輪は広がるが、親しくつき合うのは何人かに限られる。入学式で隣り合わせた倉持一平(いっぺい)、同じクラスの阿久津唯(ゆい)、彼らとともに入会したサンバ同好会の代表、石田健次、同郷でマスコミ研究会の小沢、授業で一緒になった加藤などだ。加藤と一緒に通った自動車運転教習所では、世之介のガールフレンドとなる与謝野祥子と知り合う。

 

狭いと言えば狭いが、長崎の高校時代に比べれば随分と人間関係の範囲は広がっている。特に地方にはあまりいないタイプの「人種」がいる。お金持ちのお嬢様、与謝野祥子は地方の田舎にはまずいないタイプだし、同郷の小沢や、地方出身で「高級娼婦」然とした片瀬千春(ちはる)などは、都会で暮らすからこそ存在するタイプだ。

 

こうした中で世之介は自然体でマイペースだ。女性から見ると「鈍感」らしい。田舎者らしく図々しいところもある。クーラーつきの加藤のアパートに、暑い時期、しょっちゅう泊まり込んだりするあたりだ。一方、とても親切でもある。周囲のほとんど誰に対しても。「できちゃった婚」で阿久津と結婚し、大学を中退した倉持に、頼まれるままにお金を貸したりする。後年の祥子の言によるなら、「立派? ぜ~んぜん。笑っちゃうくらいその反対の人」「ただね、ほんとになんて言えばいいのかなぁ・・・・・・。いろんなことに、『YES』って言ってるような人だった」ということになる。だから、彼の「最期」もそれほど意外ではない。「世之介らしいな」と。

 

作者の吉田修一は私より11歳若いので、大学生活も10年くらいあと、ちょうどバブルのころだったはずだ(卒業はたぶん1991年ころか)。そのころ私はずっと日本にはいなかったのだが、当時の大学生生活はこんな感じだったのかと、懐かしく思った。サークル活動やバイトは私の時代よりも多様化し、盛んになっている。学生は、ノンポリで、あまりガツガツせず、おとなしい印象だが、これは時代のせいか、H大学生の特徴か、よくわからない。

 

10年くらい前だったと思うが、H大学を1990年代初めに卒業して、ある大手メーカーの人事マンとして働く青年に出会ったことがある。さまざまな会社の人事担当者が集まった勉強会で話をする機会があったのだが、私は当時流行っていた成果主義的な人事制度改革の動きに対してかなり批判的なことを言った。終わったあと、「実はボクも同じこと思ってるんです」と話しかけてくれたのが彼だった。話は、やがて彼の大学時代のことに移り、過激派学生が少数ながら残っていたH大学では授業や試験が正常に行われず、レポートによる成績評価が多かったこと、彼自身、あまり勉強せずに1年間留年したこと、しかし就職は売り手市場で、企業の採用担当者がキャンパスまで出向き、積極的なリクルーティング活動を行っていたことなどを懐かしそうに話してくれた。世之介と同世代である彼は今ごろどうしているだろうか、とふと思った。

 

最後に映画について一言。小説の内容を比較的忠実にトレースしていると思う。ただ、小説を読んだときに私が頭の中で勝手にイメージした人物像と映画の中の役者がマッチしないことがあり、(そういう想像をしていた自分自身に対して)笑ってしまった。例えば、主人公、世之介の恋人役である祥子ちゃん、お金持ちのお嬢さんで、しゃべりも天然というか、ちょっとトロい感じだ。私はなぜか、『ふぞろいの林檎たち』(1980年代に流行ったTBSのテレビドラマ)に出てきた柳沢慎吾の女房役、中島唱子(しょうこ)のようなイメージで小説を読んでいた。ところが、映画でこの役を演じたのは吉高由里子、今をときめく若手女優で、なかなかスウィ-トな子だ。これだったら、世之介、もっとガッつかなきゃー(笑)。

 


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