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カミュ「ペスト」のパヌルー神父 [読書]

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カミュの小説『ペスト』(La Peste)は、194x年、アルジェリアのオランを襲ったペストが人々にどのような影響をもたらしたか、特に何人かの主要登場人物が何を考え、どう振る舞ったかを描いた作品である。今回は、小説全体を通しての主人公とも言うべき医師のベルナール・リウー(Bernard Rieux)と、宗教家として小説中、特異な位置を占めるパヌルー神父(Père Paneloux)に注目したい。

 

イエズス会の情熱的な宣教師、パヌルー神父はミサで集まった聴衆につぎのように語りかける。

・「皆さん、あなたがたは禍のなかにいます。皆さん、それは当然の報いなのであります。」«Mes frères, vous êtes dans le malheur, mes frères, vous l’avez mérité.»

・「今日、ペストがあなたがたにかかわりをもつようになったとすれば、それはすなわち反省すべき時が来たのであります。心正しき者はそれを恐れることはありえません。しかし邪なる人々は恐れ戦(おのの)くべき理由があるのであります。」«Si, aujourd’hui, la peste vous regarde, c’est que le moment de réfléchir est venu. Les justes ne peuvent craindre cela, mais les méchants ont raison de trembler.»

 

こうしたパヌルー神父の説教に対して、リウー医師はつぎのような感想を抱く。

・「私はあんまり病院のなかでばかり暮らしてきたので、集団的懲罰などという観念は好きになれませんね。しかし、なにしろ、キリスト教徒っていうのは時々あんなふうなことをいうものです。実際には決してそう思ってもいないで。」«J’ai trop vécu dans les hôpitaux pour aimer l’idée de punition collective. Mais, vous savez, les chrétiens parlent quelquefois ainsi, sans le penser jamais réellement.»

・「パヌルーは書斎の人間です。人の死ぬところを十分見たことがないんです。だから、真理の名において語ったりするんですよ。しかし、どんなつまらない田舎の牧師でも、ちゃんと教区の人々に接触して、臨終の人間の息の音を聞いたことのあるものなら、私と同じように考えますよ。その悲惨のすぐれたゆえんを証明しようとしたりする前に、まずその手当てをするでしょう。」«Paneloux est un homme d’études. Il n’a pas vu assez mourir et c’est pourquoi il parle au nom d’une vérité. Mais le moindre prêtre de campagne qui administre ses paroissiens et qui a entendu la respiration d’un mourant pense comme moi. Il soignerait la misère avant de vouloir en démontrer l’excellence.»

 

ペストの猛威はその後も衰えず、罪のない子供たちの命も容赦なく奪う。パヌルー神父は保健隊に入り、ある少年の臨終にも立ち会うが、その様子にリウー医師は苛立ちを隠せない。ペストが人への懲罰だというのなら、どうして罪のない子供たちにその災禍が及ぶのだ、と。

・「まったく、あの子だけは、少なくとも罪のない者でした。あなたもそれはご存じのはずです!」«Ah ! celui-là, au moins, était innocent, vous le savez bien !»

・「子供たちが責めさいなまれるように作られたこんな世界を愛することなどは、死んでも肯(がえ)んじません。」«je refuserai jusqu’à la mort d’aimer cette création où des enfants sont torturés.»

・「人類の救済なんて、大袈裟すぎる言葉ですよ、僕には。僕はそんな大それたことは考えていません。人間の健康ということが、僕の関心の対象なんです。まず第一に健康です。」«Le salut de l’homme est un trop grand mot pour moi. Je ne vais pas si loin. C’est sa santé qui m’intéresse, sa santé d’abord.»

 

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*冒頭の写真は、スイス、ルツェルンのシュプロイヤー橋にて。1635年に描かれたものとされ、ペストは幼児も容赦なく襲った。末尾の写真は、フランス、ランスのフジタ礼拝堂にて。フジタは第2次大戦後、子供を主題にした作品を好んで描いた。本ブログで、『ペスト』の日本語訳は宮崎嶺雄(訳)、新潮文庫(1969年)による。

 


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