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「桃李不言 下自成蹊」 [日本]

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先日、2014年上半期(16月)、日本への外国人観光客数(「訪日外客数」)が過去最高になったとの報道があった(日本政府観光局(JNTO)調べ)。実際、このごろ東京だけでなく、ちょっとした観光地に行くとごく普通に外国人観光客の姿を見かける。円安効果もあるのだろうが、私はかねてより日本の観光資源は人工的なもの、自然、人々などトータルに見て世界有数だと思っているので、素直に喜んでいる。

 

もっとも増えたとは言え、国際的にはまだまだである。観光庁ホームページにある「2012年入国旅行者数ランキング」によると、日本は836万人で世界33位、アジアでも8位である。世界のトップ5は、フランス(8,302万人)、米国(6,697万人)、中国(5,773万人)、スペイン(5,770万人)、イタリア(4,636万人)で、アジアで日本より多い国は中国、マレーシア(2,503万人)、香港(2,377万人)、タイ(2,235万人)、マカオ(1,358万人)、韓国(1,114万人)、シンガポール(1,039万人)である。中国がスペイン、イタリアより多いとか、マレーシア、タイ、韓国などが日本より多いというのは少々意外だった。

 

こうしたことから政府がさまざまなマーケティング戦略に力を入れるのもうなずける。問題はここから先だ。このごろテレビ番組で、外国人をスタジオに呼んだり、街でインタビューしたりして、日本の良さを語らせているのを何度か目にした。日本人視聴者として悪い気はしないが、彼らが感じる日本の問題点についてももっと引き出すべきではなかろうか。自己満足だけからは改善は生まれない。

 

それにしても、日本人の気質も変わってきたなと思う。一昔前までは、自分のことを他人に対して良く言う(自慢する)というのは「謙譲の美徳」に反するはしたない行為であった。ところが、これが「グローバリズム」なのか、ネット上でも対面でも自分をアピールする傾向がどんどん強くなっているように感じる。中身が伴っているのならまだよいが、明らかに誇大広告、ハッタリ、虚言に類するものも多い。

 

以前このブログで世界有数の観光地モン・サン・ミッシェルの貧相なムール貝と、アメリカメイン州の田舎レストランで大盤振る舞いされたロブスターを対比したことがある(201253日付)。有名観光地の貧弱なサービスと、ふつうの町の豊かなおもてなし、観光業のマーケティングに携わる人たちにはぜひこの問題を解決してもらいたい。日本の観光業は、まだそれほど「すれていない」と思うので、その可能性は十分あると思う。

 

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最後に、マーケティング嫌いの私から余談を。かつて私が尊敬するK先生から司馬遷の『史記』を勧められたことがある。先生が好きな箇所の一つは、悲運の名将、李広に関するつぎの一節だ。

 

太史公曰く、伝(でん)に曰く、「其の身正しければ、令(れい)せずして行なわる。其の身正しからざれば、令すと雖も、従わず」と。其れ李将軍の謂(いい)なり。余、李将軍を睹(み)しに、悛悛(しゅんしゅん)として鄙人(ひじん)の如く、口、道辞(どうじ)する能わず。死するの日に及び、天下、知ると知らざると、皆為(ため)に哀(あい)を尽くす。彼れ其れ忠実の心は、誠に士大夫に信ぜられしなり。諺に曰く、「桃李(とうり)、言わざれど、下、自(おのずか)ら蹊(けい)を成す」と。此の言、小なりと雖も、以て大に喩(たと)うべきなり。

 

太史公のことば-

経典(けいてん)にいう、「その人自身が正しければ、命令を下さなくても行われ、その人自身が正しくなければ、命令しても服従しない」と。これは李将軍のことをいったようなものである。わたくしは李将軍を見かけたことがある。田舎者のように実直で、口べたでうまく物がいえなかった。死んだ日には、かれを知っているものも知らぬものも、全国の人人がみなかれのために哀悼のかぎりをつくした。実にかれの誠実な心が、世のインテリたちの信用をえたからである。諺にいう、「桃や李(すもも)はものを言わないが、その下にはしぜんと小道ができあがる」と。このことばは小さなたとえにすぎぬが、大きなことのたとえにもなりうるものである。

(田中謙二・一海知義『史記・下』朝日選書、1996pp. 198-199

 

言うまでもなく、安倍首相の母校、成蹊大学の名前はこの故事に由来する。

 

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*写真は7月中旬浅草で。浅草寺周辺は特に外国人観光客が多かったが、ここが日本の代表だろうか、もし外国人に日本で見てほしい場所があるとしたらここだろうか、と考え込んでしまった。


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