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韓国の財閥(チェボル) [韓国]

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韓国経済を理解する上で不可避なポイントは、財閥(チェボル)の存在だ。これを、戦後日本の旧財閥系企業グループや、大企業と下請企業(協力会社)の系列関係と同じように考えては大いにミスリーディングである。

 

韓国のチェボルの第一の特徴は、家族・同族が企業グループを所有し、かつ経営していることだ。したがって、彼ら一族への富の集中は凄まじいものがあると思われる。日本でも戦前の財閥は一族が企業グループを所有していたが、戦後の財閥解体により同族的持株会社は整理され、大企業の分割も行われた。この結果、現在に至るまで日本のほとんどの巨大企業はサラリーマン経営者が経営している。

 

戦後の日本における財閥解体がもたらした影響について、香西泰氏は次のように記している(香西泰『高度成長の時代-現代日本経済史ノート』日本評論社、1981年、p. 27)。

 

「財閥解体は日本経済に何を遺したか。産業の集中度が低下し、分割された企業が独立企業としての体制を整えようとすることによって、企業間競争に新しい活気がふきこまれた。パージによって、若返った経営者は、三等重役とからかわれながらも、財閥解体に処して企業を守り、さらに労働攻勢に身をさらすことを通じて、新しい産業指導者captains of industryとして成長した。経営と所有の分離が戦後日本ほど徹底したところはない。」

 

「財閥解体以後、いわゆる財閥の復活があり、企業系列化の進展があった。かつて財閥本社の果たした役割は、主力銀行によって果たされていくように見えた。しかし財閥本社の内からする統制にくらべれば銀行の外からする統制力は弱く、産業資本の地位は戦前より格段に強化されていた。戦後日本の旺盛な企業家精神と高い投資性向にとって、財閥解体は有利な影響を遺すものであったといえよう。」

 

一方、韓国の場合、1998年のIMFショックにより、デーウ(大宇)グループのように経営難から解体されたチェボルもあるが、多くのチェボルはむしろその経済支配力を強化したように見える。

 

韓国のチェボルの第二の特徴は、多くの産業分野に多角化したコングロマリットであるという点だ。日本の戦後の財閥系企業グループも多くの産業分野をカバーしていたが、それぞれ独立企業としての性格が強く、各業界のトップ企業は非財閥系企業であることが多かったという点で異なる。

 

日本では、サムスン(三星、サムソン)と言えば電機メーカー、ヒュンダイ(現代、ヒョンデ)と言えば自動車メーカーというイメージが強いが、それは輸出製品しか見ていないからだ。韓国で暮らす人たちにとって、これら巨大チェボルの経済的プレゼンスははるかに大きい。ソウル市内を歩くと、壁面にヒュンダイとか、サムスンとか描かれた高層アパートをしばしば目にする。案内してくれた私のかつての教え子で韓国からの留学生だったC君に、「あれは財閥グループの社宅なの?」と聞いたところ、そうではなく、これら財閥グループの不動産会社が開発、分譲したマンションなのだと言う。ミュンドン(明洞)では、ユニクロの隣にサムスンのファッションストアまであって驚いた(もっとも、サムスングループの第一毛織は、第一精糖と並んで、1948年創業時から続くビジネスである)。

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韓国のチェボルの第三の特徴は、広範な事業分野をカバーしているものの、銀行を持つことは認められていないという点だ。このため、チェボルへの資金供給の重要な担い手は政府系金融機関であり、政権とチェボルの間に密接な関係が生まれる。おそらく政治と経済界(韓国の場合、ほぼチェボルのこと)の「癒着」は日本の比ではなく、大統領退任後、さまざまなスキャンダルが噴出するのもこうした背景がありそうだ。ちなみに、現在のイ・ミョンバク(李明博)大統領はヒュンダイ・グループの現代建設でCEOまで上りつめた人物であり、ミスター・チェボルと言ってよい。

 

「高い経済成長を実現しながら経済格差が拡大しているのはなぜか?」という問いに対して、多くの韓国人が漠然と(人によっては明確に)感じているのはチェボル主導の経済構造だ。チェボル企業が輸出を伸ばし、完成品の生産が増えれば、部品や機械設備の購入が増え、それがもし非チェボル企業にも及ぶなら、いわゆるトリクルダウン(trickle-down、大企業や高所得者の所得増加が、やがて中小企業や低所得者にもしたたり落ちていく、との考え)が起こるはずである。しかし経済のグローバル化が進むなか、国際的分業ネットワークの(再)構築が行われ、輸出企業の生産増加が、必ずしも国内の他企業の生産増加をもたらすとは限らない。「グローバル化と両極化」の関連如何、という今回の学会の問いにきちんと答えるには、こうした国際的分業ネットワークの実態を実証的に明らかにしなければならない、と改めて痛感した。

 


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